「リョウ!!」

クロウとフィルアスが先にいるのが見える。
何でそのまま先に逃げないんだよ!?と叫ぼうとしたのだが、息を切らしている今の僕には無理な話だった。






23.WIREPULLER 前編






あぁ、全く…とリョウは思った。僕は二人を逃がすためにあんな危ない橋を渡ったのではなかったか?と自問自答する。
とはいえど、リョウその明らかな答えを出す前に思考は強制停止させていた。答えが出たとしても、ただ虚しいだけだと知っていた。


「行くよ?」


大きく息をついた後に、確認をとる。怒鳴ることは無駄だとわりきっていた。
それにしても、この後の展開を予想するだけでも頭が痛い。元気な快諾の返事を聞きながら、リョウはそう思った。




「クロウ。」
「ん?どうしたんだ?なんかあったのか!?」


フィルアスの柔らかな蒼い髪がふわりと揺れた。
向かう目的地は、あの狼が逃げる準備を整えているだろう待ち合わせ場所の古びた廃屋。
リョウは古びた廃屋の少し手前で二人の足をとめさせると、二人の方へ向き直った。


「一つ、約束してほしいんだけど大丈夫?」
「へ?あ、あぁ。俺たちを逃がしてくれるなら、何でも約束するぜ?」
「僕らのできる限りのことはやるよ。だから、今から起こることに、どれだけ驚いても腹が立っても、逃げ切るまでは僕のいうことを聞いて欲しい。」
「はぁ?」


真顔のリョウにクロウが怪訝そうな声を返した。確かに彼にとってはなんとも突拍子のない言葉に聞こえただろう。
けれど、この先を大方予想しているリョウにとってそれは突拍子のない言葉でもなんでもなく、ただ真剣な頼みだった。もしくはこの先の事態を緩和する為の予防線。
リョウは大きな月をみあげて息をはいた。白くなった吐息は空へのぼって消える。


「すぐに、分かるよ。」
「分かるって…どういうことだ?」


クロウの困ったような表情を月が照らす。


「君は、最初にある親切な人が君を助けてくれた、みたいなことを言ってたよね?」
「あぁ。貴族にしちゃ若い焦げ茶の髪でサングラスの―――お前を呼び出した、あの兄さんだよ。」


リョウの中で憶測が確信に変わった。


「覚えおいて、世界はそんなに甘くないよ。」
「……はぁ?」
「けど、約束する。君たちはとりあえず安全なところはで逃がすって。」


眉をひそめたクロウにリョウは微笑んだ。それはもちろん作り笑いであり、なにの意味を込めたものでもなかった。
リョウが廃屋の扉に手をかける。壊れかけた扉が嫌な音を立ててひらいた。差し込んだ月明かりが廃屋の中を照らし、一人の青年をうつしだす。


「四七分―――か。二分の遅刻だ。お前が待ち合わせに遅れるなんて珍しいな?」


クロウが叫び声をあげた。




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