ギィ、という少し古めかしいドアの音と共に、
暗いその部屋に少しの光が差し込む。
そして、今度はバタンという音とともに暗闇が戻った。
13.視線ト檻ノ中ノ青【後編】
「っと―――電気、電気。」
パチッとスイッチが入る音がして部屋に薄暗い、小さな明かりがついた。街灯に次々と灯りが灯るようにがついていくのように、ポツポツと明かりがつく。それによって、部屋が照らし出されて、全体が姿を現した。
「凄いや。」
口の中で小さく呟く。
目の前に通路として空けられた床以外に均等に並べられている競売品の数々。まさに宝部屋。目もくらむようなものばかりだった。
『さて、カメラは――』
まるで見回りをしているかのように辺りを見渡し歩きながらさりげなく、天上の四方に視線をやる。先程の部屋とは違い、その四方に目を光らせているものはなく、かわりに火災探知機らしき物がちいさな赤い光を点滅させていた。
「うわ、ありえない。」
それを見て、カメラがあるという緊張感から開放されると同時に、こんな警備でいいのかという脱力感に襲われる。
「いや、いいか?僕にとっては好都合なんだ」
自分に言いきかせるように呟いて、軽く頭をふる。カメラがあれば行動は制限されてしまうのだ。見回りと称して、太陽の泪の配置とセキリュティを確認した自分にとってそれは、どちらかというと幸運な事なんだ。
そう、頭の中で何度も呟きながらあたりを見渡して、リョウは太陽の泪を探した。
「あれ、か。」
ゆっくりと、まるで競売品を品定めするかのように見回っていたリョウの視線の先に小さなショウケースに入れられた透明な泪形の宝石が姿を現す。
光りも与えていないのに煌々と輝くその姿は、流石は神秘の水晶と呼ばれるだけのものであった。
「うっわー!やっぱり、本物は迫力が違うなぁ。」
そんな呑気な事を呟いて、少し遠くから太陽の泪を覗きこむ。触れるだけで作動する警報装置がないことを確かめつつ、ゆっくりと、太陽の泪に一歩近づいた。
テッドいわく、手は万事打ってあるとのことだが、やはり用心に越したことはない。
カタ。ガシャ、ガシャガシャガシャ!
「――ッ!?」
その時。何処からか――いや、恐らくは後方だろう――から物音がした。慌てて勘を頼りにそちらを振り向くが、どうみても人影はない。そして、次にゆっくりと部屋全体を注意して見渡す。
やはり、何も居なければ、誰も居ない。
――というか、太陽の泪盗みに来てんのに、他の泥棒にバッタリってどうなんだろ。そんな事を考えながら、リョウは誰も居ないという事実に胸を撫で下ろした。
カタッ。ガタッ!ガチャ、ガチャガチャ!
「なっ…!?」
リョウは慌てて後ろに飛びのいた。今度は、突然の音とともに少し前方にあった正方形の物体が揺り動いたのだ。薄暗くてよくは見えないが、何やら黒いもののようだった。
「誰か、いるのか?」
腰元から、警備用の懐中電灯を取り出して尋ねてみるものの、返事の代わりに返ってくるのはガチャガチャとその物体が揺れる音だけ。
リョウは警戒しながらも、冷静にそれに近づくと、利き手ではない左手に懐中電灯を持ち替えて、そっとそれに光をあてた。
「なんだ、これ。……黒い、布?」
利き手である右手は、いつでも腰元にある銃を取り出せる位置に置いてリョウは観察でもするかのようにそれを見た。
大きさは結構大きい。高さは大体リョウと同じくらいでかなりの幅もある―――
そして、懐中電灯の光にあたった部分はキラキラとその光を反射させていて懐中電灯を持ったまま恐る恐る触った左手の指先の感触から、それが上等な生地であることが分かった。
リョウはツィ…とその布を掴むと光の当たった場所をマジマジと眺める。神秘的に輝くその布に、リョウはふと、疑問を覚えた。
『何のためにこんな上等な布を?』
不思議そうに顔を顰めて、もう一度その布をみる。だが、その布が答えを導き出してくれるはずもなく、疑問は深まるばかりだった。
ガタンッ!!
「うわッ!?」
大きく、布のかかった物体が揺れる。布に意識を奪われていたリョウは銃を抜く事も忘れ、左手に布を掴んだままで思いっきり後ろに後ずさった。
スルリと、かぶさっていた布が外れる。
「え、なんで…?」
リョウは目の前の光景を見て固まった。
そう。黒い布は外れた今、リョウの目の前にあるのは―――檻。
その冷たそうな鉛色の柵を、細くて白い腕がつかんでいた。柵の間からは、美しいスカイブルーが揺れる。
「――――女の子っ!?」
呆然と目を見開いて呟いた言葉に、檻の中の美しいスカイブルーの髪と瞳をもつ少女はにっこりと、人懐っこい笑みを浮かべた。
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