大切な競売品の警備は手薄。

まず、こんなに簡単に新入りを入れる自体間違ってる。

こんなのでいいのか、警備業界、もとい我が国家の軍。






13.視線ト檻ノナカノ青 【前編】







「交代――にはちっと早いが。頼んだぜ、新入り。」

自分と同じ警備服を着た二人の男が眠そうに自分の肩を叩いて通り過ぎるのに、リョウは軽く返事を返すと、帽子を深く被りなおした。

「そーいやぁ、もう一人の奴も新入りだ。新入り同士仲良くやれや。」

後ろから男の声が聞こえて、次にバタンと扉の閉まる音がした。ちいさな部屋に溜息が響く。

この部屋――あるのは小さなドアが2つ、防犯・火災ベル、黒い監視カメラ。それに加えて、小さな机と椅子が幾つか。 実をいえばきちんとした競売品は別の場所で違う警備隊が保管している。それなら何故、こんな部屋を警備する必要があるのか。その理由は、この部屋から繋がるドアの向こうに問題があった。

「一体、何だって言うんだよ。」

まず、一つ目のドアはココまでの廊下につながっている。簡単に言えば、この部屋への入り口。一つ目、コレは問題ない。
問題は二つ目のドア。このドアを開けた先に広がっていると考えられるのは高そうなモノが幾つか並べられている。そして少し薄暗い。そんな光景。

そう、二つ目のドアに続くのは競売品の中でも特に高い品の安置室。太陽の泪をはじめとする、あまり公には公表できないような品々を競売する、権力・金力ともに上位にランクする富豪のみで行われる裏オークション。

まぁ、もともとかなり違法なものを取り扱っているので裏の裏とでもいうのだろうか。とりあえず“裏オークション”と呼ばれているらしいそれを行うのに必要な品々を置いている、いうなれば「宝部屋」というわけだ。

しかし、この部屋の必要性。それは何か?わざわざこの部屋を一つ挟んで、「宝部屋」を置いたとして何の意味がある?
その疑問はついさっき解消した。聞いたところによると、『警備の為』であった。詳しく話を聞けば、「宝部屋」の前に一つ部屋を挟む事で、更に、侵入を困難にするのだという。実際その「宝部屋」には窓もなければ、ここに戻る以外にドアは無いらしい。

リョウは、はっきり言って無意味だと思った。
盗む側から見れば、無意味である。確かに捕獲率はあがるであろうが、そこで捕まってしまうくらいの人間なら、まず一つ部屋を挟んでいないと仮定した宝部屋にすら忍び込むことは不可能だろうからだ。
これを考え付いたのはとある富豪の息子だとか。発想はいいが、インパクトと実用性にかける。しょせんは貴族の息子の脳か。リョウは一人小さく呟いた。

それはさて置き。
新入りとして、上手く警備隊に紛れ込めたリョウ。しかも、今から正当――とはとても言い辛いが――な競売品のみで行われる競売。裏オークションと対をなすならば、表オークション。そう呼ばれているらしいモノの終了時間までは此処の警備を任されている。

『そして、此処の警備体制は二人一組、が主流か――』

リョウは近くにあった椅子に座った。何も無い天上をあおぎみる。

――――警備隊の総数人数はたったの十二人。
つまり、今の状況から言えばどう考えても「宝部屋」の警備は二人。他の十人は会場の場内と場外の警備にまわるというわけだ。

『二重警備より二人一組よりも、たったの十二人って事が有り得ないんだよなあ、ここの警備――――』

ふうっと息を吐いて、背もたれに寄りかかっていた身体をきちんと持ち直す。ズーンと身体が重くなったような気がする。
そう、二重警備よりも何よりも、この十二人という数が問題なのだ。リョウにとっては有り難いこと極まりないのだが、幾らなんでもこれは酷い。そして、リョウともう一人新人が入ったとの事だったから、もしリョウと新人がいなければ、十人でやるつもりだったのだろう。

普通なら、この警備という仕事は軍などの仕事である。しかしながら、ここにいる警備員の半数以上は軍服を身に纏っているだけで軍人ではないらしい。だから、リョウもすんなり入れたのだ。
どうやら軍としては、取り締まるつもりもなければ、手を貸すつもりもない様子。

『ま、好都合なんだけどさ。』

ちらりと腕時計をみれば、表オークション開始の二十分前。九時四十分をさした時計をみてから、リョウはひとつ息をついた。

「まだ、相当早いな。」

オークションの開始とココの警備の交代時間は共に10時。少々どころか、結構早く来てしまったらしい。

ちなみに、今のうちに盗むという手もあるのだが、それは些か危険すぎる。泪にはセキリュティがあるかどうかは知らないが、此処まで妙な二重警備の部屋があるのだ。警備隊に金をかけてなくても競売品のセキリュティにという可能性も高い。警報ぐらいはあるだろう。
だとしたら、警報装置解除にいは多少なりとも時間はかかるのだから、もしも、解除している間にもう一人の新入りがくればアウトだ。

『それに、コイツもあるしなぁ。』

チラリと目線を部屋の角に向ける。其処にはジーッという機械音をたてて、ギラリと目を光らせる小型の監視カメラがあった。

『これは、思ってたよりも結構厄介かもしれないな―――』

とは言え、恐らくこのカメラの向こう側には誰もいないか、もしくは寝ているというところなのだろうが。リョウは今までの警備の現状から警備室の状態を想定して思った。
だが、いくら警備が乱雑だったのだとしても、カメラには記録が残る。もしも、盗んだ後に警備隊の誰かが盗んだなどと分かってしまう行動はできない。
一応は双頭の鷲の異名をかかげているリョウだ。そこから足がついたなどというのは真っ平ご免だった。

『十八分と、数秒か。』

カチッカチッと一定のリズムを時計は刻む。
リョウは先ほど交代した二人の警備員の出ていった方のドアに目を移した。

「まだ、来そうにないな。」

別に、中を先に見ておくくらい構わないだろう。テッドは、ある時間の間はリョウが太陽の泪を盗める状況になるように手を打っているというが、下手したらその機会がつぶれることだってありえる。
中の様子を見て無理なら別の方法を考えればいいし、時間内にできそうなら決行すればいい。もう一人の警備員が来たって、きっといくらでも誤魔化せるだろう。

「どうせなら見回りでもしとくか。こんなの時間の浪費だな。」

監視カメラのマイクにも拾えるように少し大きめに呟くと椅子を戻してから、宝部屋の扉へと足を進めた。








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