本当に平和な空は
『青い』のではなく『蒼い』
全ての争いの無い空は
『赤』でもなく
『灰色』でもなく
ただ、澄み切ったように『蒼い』
光陽暦 25万年
生体文化の星 ――リスティア
「なぁ、“蒼い”空って知ってるか?」
「“青い”空?」
ガラガラと、何処かが崩れ落ちた音がした。
真上に昇ってきた太陽が徐々に、少年達を照らし始める。
既に一人は眩しい太陽の光をあびており
もう一人も日陰にいるものの、日に晒されるのは時間の問題だ。
「普通に雲ひとつ無いくらいに“青い”って事じゃないのか?」
「違ぇって。その“青い”じゃねぇよ」
「はぁ?どういう事だよ、ソレ」
「漢字が違う。更に言えば、感じも違ぇな」
「……は?」
「だから、普通の“青”じゃなくて“草冠”に“倉”の“蒼”だ」
「……"蒼い"、空?」
日陰の壁に寄りかかったまま「サクヤ」と言う名の少年が尋ねる。
すると、日なた側にいる「コウ」という名の少年が特に表情を表すでもなく頷いた。
また、ガラガラと何かが崩れた。
ガシャっという大きな物音がして、何かが落ちた。
風が吹いて、カラカラと何かが風に飛ばされた
太陽だけが、少年達を見ていた。
「――さぁ?知らないな」
「ふーん、そうか」
「で、何なんだい?その“蒼い空”ってヤツは」
「あぁー…何つーか、アレだな」
日陰の少年は興味が沸いたように、また尋ねる。
日なたの少年は、眠そうに一つ欠伸をする。
ドカッとその場に座り込んだ。
少しだけ気ダルそうに口を開いた。
「“蒼い空”は平和な空なんだよ」
「………はい?」
「だから、“青”じゃなくて“蒼”の空は平和なんだよ」
「……はぁ」
よく意味の分からない日なたの少年の言葉に
日陰の少年は素っ頓狂な声で相槌を打ちながら耳を傾ける。
唐突な言葉ながら、日陰の少年にも意味は分かっているらしい。
「でな、今の空は“青い”んだよ」
「……なるほど」
日陰の少年が納得したように言葉を返した。
それと同時に、日なたの少年は小さく掛け声をあげて立ち上がると
パンパンっと自分のズボンについた"土や埃"や"汚れ"をはらう。
砂埃が舞い、
徐々に少年の破けた服から見える。
傷だらけの素肌が生ぬるい風に晒された。
それは、生き抜いてきた者の身体。
傷だらけになって、周りに誰もいなくなって…
それでも、希望を捨てることさえ許されなかった者達の身体。
「俺は、それが見てぇんだ」
「………“蒼い空”か」
呟くように言った日なたの少年の言葉。
その言葉を聞いた日陰の少年は柔和に微笑むと、日なたの少年を見た。
「俺も、見てみたい」
日なたの少年も、不器用に笑う。
心を許しあったように笑いあう二人は
「じゃぁ、残念だけど終わりにするか
全ての生命が辿った道を行くために。争いを止めるために。“蒼い空”のために――」
「そうだね。きっと、この先もこの星の空が汚される事無く“蒼い空”であることを――」
小さな手に似つかない銃をお互いに掲げて
バンッッ
引き金を、引いた。
空は無情なほどに“蒼”かった。
あるところに星はあった。
何も無い頃、その星の空は澄み切ったように“蒼”かった。
平和なその星の空は“蒼”かった。
その星で生命は生まれた。
その星で生命同士の争いが起きた。
争いは広まった。
争いは不幸を呼んだ。
争いは悲しみしか生みださなかった。
決して、“蒼い空”を見ることはできなくなった。
だから、生命は争いを絶つことに決めた。
その為には争いの元である全ての生命を消す事が必要だった。
でも、全ての生命はそれを受け入れた。
そう、"“蒼い空”のために。
自分自身よりも愛した、星のために。
それから15年後
生体文化の星 ――リスティア
そこに、一隻の宇宙船がゆっくりと着陸した。
「ここが、リスティア」
「……これが、私たちの地球に次ぐ、第二の地球ですか」
そして、そこから降り立った二人はしげしげと眺め回すと
それぞれの思いを口にだした。
「環境は悪くないな」
「酸素も十分にあるようです。それに十数年前までは生物もいたとか…」
「何故、滅びたのだ?」
「分かりません。しかし文明のほうは――」
「ほう、なかなか文明も進んでいるようじゃないか」
男の一人が、もう一人の言葉を遮って
ゴーグルのようなもので遠くを見通して嘲るように笑った。
そこには破壊され、崩れ落ちたビルの残骸のような廃墟がある。
そう、そこはまるで戦争があった後の世界のように、酷い有様だった。
「大総統!こちらに……!!」
それを眺めていた男に向かって、もう一人が叫ぶ。
多少急ぎ足で、呼ばれたほうは駆け寄る。
「これを…」
ガラガラと今でも崩壊をしている、恐らく建物かなにかであっただろう場所。
そこにあったのは少し離れた場所で横たわる、二つの白骨。
その手元にはお互いに銃器のようなものが握られている。
小さくみえるその白い骨は、まだ歳のいかない幼い子供のモノのようだった。
「殺し合いか……」
「そのようですね。何て悲惨な」
「もしや、この星の生物が滅びたのは戦争でもやったからだというのか?」
「……何処にいっても、やはり争いはあるのですね」
「そうだな。今度は「この星 対 地球」となるのだろう」
「ですね。この子達の戦争は終わってしまったが、私たちがそれを引き継ぐのですね」
あぁ、空が“蒼”を失ってゆく。
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以上、零の暁様からリクエストして頂いた「蒼い空」でした。
本当にコイツぁ訳の分からねぇ話ばっかりつくるなと呆れられそうで
もう、この後書きを書いている時ですら心臓がバクバク言っております…。
こんな物ですが、暁様!宜しければ貰ってやってくださいっ!!