宇宙機密捜査官
クリスマス記念小説
 輝くイルミネーション、街を練り歩くクリスト・キント、肩を寄せ合う恋人たち。

 ここ、地球のドイツではクリスマスを迎えていた。華やかな雰囲気の中、街に繰り出す者や、教会で祈りを捧げる者、自宅で静かに夜を過ごす者もいる。

 そして、ここにも暖かな家の中でクリスマスを祝う一つの家族と、招待された友人たちの姿があった。





 ゲルツ家の家は普通よりもかなり大きい。とはいうものの、大黒柱であるルギツ・ディノ・ゲルツが友人をちょくちょく家に招待するためである。

 今日、クリスマスもまた例外ではない。

 今年お呼ばれしているのは毎年招待しているサンガ一家、そして長女カイの同僚であるクロス・ゲンヴィーンとシラギク・ウェーダの二人である。以前シラギクの自宅にお邪魔したので、そのお礼として家に招いたのだ。クロスを呼んだのにはただ単にルギツが戦闘機について語り合いたいだけのようだが。

 ともあれ、ルギツ家では小さな晩餐会が開かれていた。一家全員が軍人であるルギツ家でこんなに大勢でテーブルを囲むのは、一年のうちこの日しかない。

 食事は全てカイの手作りで、七面鳥やクリスマスケーキ、生地から手作りのピザなどがテーブルに並べられている。

「カイって料理もできるんだな。」

 意外そうなシラギクの言葉に、カイは胸を張って応える。

「うちの親父が手作り主義でな。自動調理器が我が家には存在しねぇんだ。」

「へぇ。誰かさんの家とは大違いだ。」

 黙々とピザを食べているクロスを見て、二人は笑う。そう、クロスは料理が嫌いなのだ。

 そんな二人を軽く睨んで、

「うるせぃ、料理なんざ食えりゃいいんだよ。」

「あー、はいはい。」

「ほぅ、クロス殿は料理が苦手なのか。」

 思わぬところから響いた声に、二人はあわててその本人を見る。イツァークだ。

「あ、えーと、それなりに。」

「奇遇だな。私も妻に“あなたに料理の才能はない”と言われていてね。」

 クロスのあわてぶりに構わず、イツァークは笑って言う。はぁ、と返事をするクロスの後ろから、シラギクが尋ねた。

「イツァーク大将は、その、ルギツ大将と知り合いだとか・・・」

 思っていることを直接口にするのもはばかれて、シラギクは言葉を濁す。

「仕事中でもないから、“イツァークさん”とでも呼んでくれ。で、何故私が家族で招待されているのか、と?」

 ずばり言い当てられて、少々気まずい気分になる。しかしイツァークは事もなげに言った。

「ルギツとは家族ぐるみの付き合いでね。カイの名付け親を知っているかな?」

 唐突な問いに、シラギクは驚く。まさか、この話の流れからいくと。

「そう、私だよ。ついでにルギツはうちの次男の名付け親だ。」

 思わずカイを見てしまう。すると話を聞いていたのか、彼女は黙って頷いた。

「はぁ〜・・・」

 まさかそこまで深い付き合いだとは。感心している間に、カイが立ち上がった。声を掛ける間もなくキッチンに消えていく。新しい料理でも出してくるのだろうか。

「・・・まだ出してない料理でもあったのか?」

 カイの動向に目ざとく気付いたクロスが問う。しかしシラギクも肩をすくめて、それを答えとした。

 やがて戻ってきたカイの手に。

「あ。」

「お。」

 カイの手の中にあるものを見て、二人は声を上げる。

 ビールである。

「お、やっと来たか。」

「今年は飲みすぎないでよ、お父さん。」

 ルギツの隣に座るチェンが注意するが、その瞳にはあきらめが浮かんでいる。

 戦闘機パイロットに利尿効果のある飲料は厳禁である。よってビールを飲めるのは休みを大量に取ってあるこの時期だけなのだ。

「はいよ。」

「あ、どうも。」

 カイからビール瓶を渡され、シラギクはまじまじとそれを見つめる。まさか、まだビール瓶が存在しているとは。久しぶりの重みにシラギクは感心する。

 そしてビールをジョッキに入れ終わったと同時に、イツァークの子供たち以外の全員にビールが回ったのか、カイが席に着く。

「さぁ、乾杯しようか。」

 朗々と響くルギツの声を合図にして、ビールの入ったジョッキを、子供はジュースの入ったコップを持ち上げる。

『乾杯!』

 全員が、声をそろえて乾杯をした。

 両隣に座るシラギクとイツァークと乾杯した後、クロスはビールを口にする。久々の味に、しばらく酔いしれた。

 半分ほど飲み干して、ジョッキから口を離す。この苦い後味も、一年ぶりだ。

「うまいな。」

「だろ?」

 クロスの独り言にカイが返事をする。彼女のジョッキはすでに空であった。

「ビールはドイツの特産物でな。地球人の中でビール瓶を使ってビールを作ってるのもここだけよ。」

 だからか。

 カイの言葉を聞いて、クロスは密かに納得する。ここに来るまでの道の様子を思い出してみると、確かに特産物でなければあれだけの店はない。

 どおりでドイツは酒場が多いと思った。ついでに酔っ払いも。

 お代わりを注いでまたもや一気飲みするカイに、シラギクが苦い顔で注意する。

「ちょっと、ペース速いんじゃねぇ?」

 その言葉にカイは無言でルギツを指す。

 彼の前には、すでに空瓶が二本。意外にもその隣に座るチェンの前にも一本。

 呆然とするシラギクに、カイがさらに言った。

「うちの家系は代々酒豪でな。今日は客が来てるから遅い方だぜ。」

 無言で固まるシラギクのジョッキに、クロスが静かにビールを注いでやった。





 サンガ一家が帰途についてもなお酒宴は続いていた。

 テーブルの上に並ぶ空瓶は一本二本・・・合計十一本。ルギツ一家が飲んだのは合計八本である。

 その中でもまだ素面の方にいるクロスとシラギクは、ルギツ一家の変貌に驚き、呆れていた。

 何やらブツブツ言いながら飲み続けるチェン。ただ黙々と飲むカイ。

 そして。

 泣き上戸と化したルギツ。

「なぁ・・・」

「言うな、シラギク。」

 思わず嘆きたくなるその様相に、クロスがストップを掛ける。この際、自分も酔ってしまう方がマシと言わんばかりにビールを注いでみた。

 不意に、カイがジョッキを手放した。微妙に赤くなっている顔で離れて座っているクロスとシラギクに近付いてくる。座ったまま、クロスは即行で退く。

 妙なところで器用な奴め。

 シラギクが逃げ出した友人を恨みながら、仕方なしにカイを見る。隣に勢いよく座った彼女は意外にもしっかりした声で、

「すまねぇな、こんな醜態見せちまってよ。」

「あ、まだ素面に近い。」

 あれだけ飲んだというのに、カイはまだ素面と酔っ払いの境目を越えていなかった。驚きつつもクロスが離れた所で答える。

「別にいいけどよ。ルギツ大将があんなに泣き上戸とは・・・」

 その視線の先には泣きながらビールを飲むルギツ。確かにあれは意外だった。

 あぁ、あれね。と言いながら、カイが続ける。

「母親が生きてた頃はあんなんじゃなかったらしいけど。風景の一部と考えてくれ。ついでにチェンも。」

 どうやら、こういう酒宴の場においてカイはもっぱら後始末役のようだ。納得して、シラギクはジョッキをテーブルに置く。

「さて、俺はもうやめるかな。」

「俺もそうする。」

 シラギクにならい、クロスも最後の一口を飲み干す。それを見てから、カイは父と妹からビールを取り上げるべく、立ち上がった。

 自分らにあてがわれた部屋に行く途中、声が聞こえる。どうやら酔っ払い二人に苦労しているようだ。

「あー・・・シャワー浴びて寝るか。」

「そうだな・・・」

 重くなってきたまぶたをこじ開けて、クロスは部屋に入った。二つあるベッドのうち自分の荷物が乗っているベッドに近付く。

「ちょっと失礼。」

『のゎ!』

 突然聞こえたルギツの声に、二人が叫ぶ。しかしそれを無視してルギツは部屋の中に入ってきた。いつの間にか酔いもさめているらしく、足取りもしっかりとしていた。

「な、何でしょうか。」

 驚きつつもシラギクが答える。するとルギツは笑顔で言った。

「いや、大したことじゃないんだがな。あ、先程はとんだ醜態をお見せして申し訳ない。」

 照れたようにルギツは笑う。

「いえ・・・えーと、俺たちは何も見ていませんから。」

 何を言えばいいのかわからず、結局思いついた言葉で答えることにする。苦しい言い訳だが、ルギツはそれにあえて何も言わずに続ける。

「実は・・・」

「親父!」

「ぎゃーーー!」

 部屋の入り口から響くカイの声に、クロスが壁まで移動する。やはり無視してカイは持っていた荷物をルギツに渡した。

「あんた、肝心な用件を忘れるんじゃねぇよ。」

「はっはっは。すまん、すまん。」

 笑いながら受け取るルギツを呆れたような目で見てから、カイはすぐさま部屋を出ようとする。しかし、入り口のすぐ前で動きを止めた。

「・・・どうした?」

 怪訝そうに尋ねるシラギクに、カイは首だけ回して言った。

「メリークリスマス。あとおやすみ。」

「あ、メリークリスマス。」

「・・・メリークリスマス。」

 それを言って気が済んだのか、カイは部屋を出て行く。その背中に小さく呟いたクロスの声は届いたかどうか。

「で、二人に用があるんだが。」

 カイから渡された荷物を掲げて、ルギツが話を元に戻す。

「あぁ、何ですか?」

 ようやく壁から離れたクロスが答えると同時に、ルギツはその荷物をシラギクに押し付ける。

「え?」

 わけもわからず受け取るシラギクに、ルギツは笑顔で言った。

「メリークリスマス。クリスマスプレゼントだ。」

「えぇ?」

 唐突な贈り物に、二人は困惑気味にルギツを見る。そんな二人を尻目に、彼は笑いながら言い放った。

「クリスト・キントからのプレゼントと思ってくれ。ではおやすみ。」

 笑いながら部屋を出て行くルギツ。呆然とそれを見送って、我に返った時には手にプレゼントが。

「・・・なぁ、“クリスト・キント”って何だっけ。」

「えーと、確かドイツのサンタクロースみたいなの。」

 プレゼントの入った袋を見ながら、二人は視線を交わす。しばらく無言で立ちすくんでから、どちらともなしにプレゼントを開けはじめた。

 そして。

「何入ってた?」

 シラギクが問うと、クロスは無言で手の中のものを見せる。

 それは、マグカップであった。かわいらしい雪だるまが描かれている。

「へぇー・・・」

「お前は?」

 問われて、シラギクもクロスにプレゼントを見せた。彼のは雪の結晶が散りばめられている手袋だ。

「まぁ、サンタさんからのプレゼントってことで。」

 ありがたくもらっておこうぜ、とシラギクが言うと、クロスが頷く。まさかこの年になってサンタ(?)からプレゼントをもらうとは。

 マグカップを備え付けのテーブルの上において、クロスは笑った。

 メリークリスマス!





 後に、そのマグカップはカイとおそろいであることに気付くのはまた別のお話。







fin


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またもや時空召還様からフリー小説を強だ…
けほっほっけほっ…きちんと頂いてきました!(ォィ
クリスマスです…!ふんわりした雰囲気が伝わってきますv
カイとクロスのコンビが最高ですvあの二人大好き(笑)