宇宙機密捜査官 100HIT御礼 〜偶然がもたらすもの〜 |
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現在地球には、大きな街というのが一つしかない。というのも他の星に人間が移り住んでから、地球と言う惑星に住み続けるものが少なくなってきたからだ。 その数少ない者の中に、カイとクロスは入っている。カイが現在住んでいるのはドイツ、クロスが住んでいるのはアメリカである。 で、地球唯一の大きな街というのは、オーストラリアに位置しているユエルドシルである。何故オーストラリアなのか。理由は簡単、ちょうどそこの土地が安かったからである。ちなみに店の名前はオーナーの名前から取ったらしい。 そこにはあらゆる店が揃えられ、大抵大きな買い物をする地球住人はそこで買い物を済ませるのが常だった。 余った時間をどうしようかと、クロスは街をぶらついていた。 ゲルーニカとの初の戦争の後、ようやく取れた休暇に家でゆっくりしようと思ったら自動調理機が壊れていたのである。一応一人暮らしをして長いこともあり、料理ができないわけではないのだが、いかんせん彼は家事嫌いなのである。なので、休暇の初日からここ、オーストラリアのユエルドシルに来ていたのだ。 しかし自動調理機を新しく買うより修理した方が安くつくため、今は修理が終わる時間までの時間を持て余しているのだ。 ここにはカジノや映画館などもあるのだが、どちらもあまり好きではない。図書館もあるにはあるが、ここのオーナーは何故か熱狂的な本好きらしく、電子本ではなく古くからある普通の本しか置いてないのだ。もちろん本も読めないことはないが、クロスはもっぱら電子本しか読んでないので気分が乗らなかったのだ。 しゃーねぇ、ゲーセンにでも行くか・・・ 唯一暇を潰せそうな場所に見当をつけ、歩き出そうとする、と。 「クーロースー、聞いてんのかてめぇっ。」 「ぎゃーーーー!!」 耳元で叫ばれ、クロスは飛び上がった。しかもそれが死ぬほど嫌いな女の声であったのだから、当たり前であるが。 そこに立っていたのは、クロスにとっては悪の元凶、カイ・アンルシア・ゲルツであった。今日はさすがに制服ではなくズボンと黒い上着を羽織っている。 その姿を見て、一瞬で三メートルは移動したクロスに向かってカイは言った。 「てめぇ人が何回も呼んでるのに無視してんじゃねぇよ。」 「ふっ、ふふふざけんな、俺の耳には女の声が聞こえないようになってんだよ!ていうか何でてめぇがここにいる!?」 「んだよ、俺が買い物しにきちゃいけねぇってぇのか?」 一応強がってはいるが、三メートル先で腰が引けているのでだらしないことこの上ない男と、仁王立ちしているカイは大通りを歩く人間にさりげなく避けられていた。二人は気付かない。 気を使ったのか、離れているクロスに近づこうともせずに、 「フライパンが錆びてたから新しいのを買いにきたんだよ。お前は?」 「自動調理機が故障した。」 しばし沈黙し。数秒後、カイは気の抜けた声で言った。 「・・・料理ぐらいしろよ。」 「うるせぃ、俺ぁ家事が嫌いなんだよっ。」 言い争う二人の半径一メートル以内を人々は避けて歩いていく。二人は気付かない。 「ところで」 そこでカイは一回言葉を切って、クロスに尋ねた。 「お前、今時間ねぇ?」 唐突にそう言われて、クロスは一瞬面食らった。それに構わずにカイは続ける。 「ここのゲーセンに新しい戦闘機のゲームが入ったからって言うからよ。一緒に行ってみねぇ?ちなみに俺の親父のお墨付き。」 その誘いにクロスは揺れた。戦闘機のゲームというのにろくなものがあったためしがないが、カイの父親であるルギツのお墨付きと言うのには非常に惹かれるものがある。しかし女と一緒にゲーセンなぞ行きたくもない。しかし時間は余っている。 「あ、あとで俺一人でい・・・」 「それ、二人プレイだからな。」 最後の抵抗と言わんばかりに考えた案はあえなく却下された。全ての逃げ道を絶たれ、目の前のカイは楽しそうに誘いかける。 「な、行こうぜ?」 その言葉に、クロスは白旗を揚げた。 ちなみに、その時には既にその通りを歩く人物は二人のほかいなかった。 そのゲーセンというのは歩いて五分ほどの場所にあった。向かう途中、最低一メートルは離れていたので特に会話もしなかったが。 「ここ。」 一瞬足を止めて、カイは指差しそのまま中に入っていく。 『ゲーム・ボブ』 と書かれた看板が大きく掲げられているが、名前がどうしてもいただけないのは何故だろうか。 ともあれ、中に入ってみる。まぁ多少大きいが普通のゲーセンであった。 「おい、クロス。」 カイが少し大きな声で叫んだが、他のゲームの音があるのでさほど大きくは聞こえない。その声の聞こえた方を見ると、二つのシートがゲーム台をはさんで向かい合っている様子が見えた。どうやらこれがそうらしい。ちょうど人もいなかったので、カイとクロスはそれぞれシートに座った。そして付属のシートベルトとバーチャルグラスを装着する。バーチャルグラスとはモニターをより立体的に、リアルに見せるための機具である。 コインを入れて、クロスは適当に操作していく。と。 (ん・・・?) ある訓練を思い出した。そう、この操作の仕方は訓練学校でやった『バーチャル戦闘機パイロット育成訓練』によく似ているのだ。これと同じようにバーチャル戦闘機を使って仮想の敵と戦う形式をとっているが、相手が本物のパイロットでバーチャル戦闘をするのは初めてである。 どうやら、ルギツ少将お墨付きは伊達ではないらしい。 『レディ、ゴー』 無機質な声で開始が告げられる。瞬間クロスはレバーを大きく倒した。機体を斜めにする操作をしたのだからモニターに映る景色が斜めになるのかと思いきや、なんとシートごと自分の体が斜めになった。 まるで本当の戦闘訓練である。 (こりゃ手ぇ抜けねぇな・・・) 少々緩んでいた気を引き締めて、クロスはカイの戦闘機に向かってミサイルを発射した。 そして、白熱した戦いは。 「よし、いけそこだ!」 「ぅわあんなの詐欺だろ。」 多くのギャラリーの歓声と共にまだ続いていた。かれこれ一時間はやり続けているだろうか。二人ともさすがにプロの、しかもエリートの現役戦闘機パイロットということもあり、その戦いは並のレベルではなかった。 クロスはカイの注意を逸らせつつ一発で仕留めるタイプだが、カイは攻撃一筋で相手を倒すタイプだ。クロスが注意を逸らせるためにレーザーを撃つと、カイはそれを巧みに避けながらクロスに小型ミサイルを発射する。 ギャラリーのうるさいぐらいの歓声にもかかわらず、二人の集中力は途切れることはなかった。戦場では一瞬の油断が命取りになるのだ。 しかし、永遠に続くと思われた戦いは意外なほどあっさりと終わった。 制服に身を包んだ警備員がギャラリーを押し退けてカイとクロスに近づいていく。そしてクロスの肩を軽く叩いた。 「ん?」 いったんフリーズさせて、クロスは振り向く。警備員は一言、言った。 「修理、終わりましたよ。」 夕暮れの街を、空港に向かって二人は歩いていく。結局勝負は引き分けということになった。 クロスの自動調理機を引き取って、自宅に転送するのに意外と時間がかかったのだ。 「あーぁ、あのまま続けてたらどうなったんだろうな。」 「どうもなんねぇよ。」 一メートルは離れているカイの言葉に、クロスはそっけなく返事をする。実際、勝敗が決まったところで強い弱いというのは戦場でなければわからないものだ。あくまでもゲームはゲーム。どんなに本当の戦闘に似てようと、全く同じ状況は作れない。 「・・・おい。」 この日初めて、クロスからカイに話しかけた。それに少し驚いたようなカイを無視して、というか見ないようにしてクロスは続けた。 「お前、料理作れんのか?」 「言っておくが俺の特技は料理といっても過言じゃねぇぞ。」 自慢するようにカイは言う。それを聞いてから、クロスは言いにくそうに顔を背けたまま、 「作ってほしいものがあるんだが。」 意外すぎるその言葉に、カイは足を止めた。そしてクロスを見ながら確認する。 「俺でいいのかよ。」 女なのに、と言外に含ませながら尋ねたが、クロスはしっかりと頷いた。 「何を?」 「味噌汁。」 「は?」 聞きなれない言葉にカイは聞き返す。だいぶ後ろにいるカイを振り向いて、クロスはもう一度繰り返した。その声で我に返り、カイは再び歩き始めた。 「作れんことはねぇけど・・・何で?」 「自動調理機だと、微妙な塩加減ができないようでな。」 かなり前に食べさせてもらったシラギクの母親が作ったような味噌汁が食べたいようである。いわゆる『おふくろの味』というものだろうか。 少々呆れたようにクロスを見るが、当の本人は気まずいような顔をしてこちらを見ている。それを見て、カイは少し笑って、言った。 「いいぜ、作ってやるよ。ついでにシラギクのも作ってやるか。」 「すまねぇな。」 任せとけ、と言ってから、いつの間に着いた空港でカイは軽く手を振った。 「じゃ、また基地で。」 「あぁ。」 手を振り返してくれたクロスをその目に収め、カイは歩き始めた。 終わり ―――――――――――――――――――――――――――――― 時空召還の月影からキリ番でいただきましたv あの素敵小説の短篇ですよっ!!(落ち着いて) 本当に月影の書く文章は人を惹く力があり羨ましい限りです。 それでは月影様!本当にありがとうございました |